1日目その3

突然のドライブとなった土曜日、
目的地は都内でも万年渋滞で名の知れた幹線道路沿いにあるドッグセンター。
高速からは距離があるので、普通でも1時間半はかかります。

自営業の用事を済ませて出発したのは午後2時くらい。
年度末のトラック渋滞と週末渋滞が重なります。
そういえば今日は引っ越しの一番の繁忙日のはず。
引っ越し屋さんのトラックもよく目に付きます。
渋滞の中、片道2時間かかってドッグセンターに到着しました。

店内には可愛い猫と犬が沢山います。
フロアの真ん中に、お目当てのサイベリアンがいました。

毛の長いもじゃもじゃした子がガラスケース越しに私達を見て、
コテっと首をかしげて寝転びます。

「可愛いねぇ」

1匹しかいないと思ったら、
ひっくり返ったベッドの中から、もう一匹も出てきます。
こちらは少し痩せていて、おっとりタイプのようです。

ケースの札には2月1日生まれの♀と書いてあります。

「まだ1月半ちょっとくらいだね」

そんな会話をしながら二人でケースを見ていると、
店主さんが出てきて、ガラスケースから出して抱かせてくれます。

ヤバイ、ヤバイよ。
子猫を初めて抱いた妻は、ほぼノックアウトされています。
まだ柔らかく華奢な身体は、猫好きの保護欲を掻き立てます。
見るだけのつもりだったサイベリアンの子猫たち。
普通の子猫でも可愛いのに、愛猫だったモカを思わせるこの子達は
私達を降参させるに十分。

引き取るつもりは無く、見るだけのはずだったのに、
結局おっとりしたほうの子を引き取る事に。

Photo_3
お金も持ち合わせずに行ったものですから、私のカードでお支払い。
ペット保険も入り、その手続きをし始めていました....。

ガラスケージから取り出して、箱に入れて貰います。
ケージに残された方の毛むくじゃらな子は、ひとりになって寂しそうです。
別れる事となった姉妹の方を見ながら、ケージの隅にうずくまり、下を向いてしまいました。

この子の方が人ウケしそうだから、たぶん良い飼い主に巡り会えるはず、
そう願ってお店を出ました。

箱に入れた子を抱えてドッグセンターを出て、
私は駐車したクルマの中でノートPCでメールチェックを行います。
自営業ですので、休みに関係なく仕事が入ります。
妻の方は、ドッグセンター近くのホームセンターへ猫用品を買いに行きました。

箱に入れられた子は、ひとりになって寂しくて、かすれた声でキィキィと鳴き始めます。
箱の外から声をかけて安心させようとすると、より強い声で鳴き始めます。
怖くて寂しい、そんな気持ちが伝わってきます。

妻がホームセンターから猫用品を抱えて戻ってきました。
真剣な眼差しで私を見ます。

「ねえ、考えたんだけど、もう1匹も飼ってもいい?」

うわぁ。
十数年連れ添った妻ですが、これは意外でした。
私もお店の中で、どちらを引き取ろうか迷った際に、両方引き取る事も考えたのです。
でも、お金の問題だけでなく、日常の世話をする妻の負担が大きくなる事は
十分判っていますから、切り出せなかったのです。

でも考えてみれば、昨年逝った愛猫モカが一人っ子で、いつも寂しそうだった事、
遊び相手を与えられず、籠の鳥で生涯を終わらせてしまった事を、
妻なりに考えていたのだと思います。
先ほど別れた、残された方の子の寂しそうな姿も、妻には酷に見えたのでしょう。

「手間も医療費も倍になるけど、大丈夫?」
「うん」

「多頭飼いになると、あまり人になつかなくなる事もあるよ」
「猫の幸せを考えたら、それでもいい」

「お金は?」
「今度は私のカードで払う」

妻はそう言って、店内に向かいました。
私も仕事のメールを終えた後、箱の中の子を車内に残して店内に向かいます。
既に商談は決定、妻は支払い手続き中。
ペット保険は私の名義で、もう1匹分を申し込む事になりました。

Photo_4
新たに箱に入れられる事になった子。
車内に居る子と同じ箱に入れてあげた方が安心すると思い、
クルマから最初の子ごと箱を持ってきます。
同じ箱に姉妹一緒に入ると、叫ぶように鳴いていた子がピタッと鳴き止みます。

「寂しかったんだよね」

妻は満足そうに言います。
飼う気など全くなかったその日、
新たな家族、それもいきなり2匹を連れて帰る事になりました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。