前日

夫婦でペットショップへ行きました。
愛猫のモカを亡くして4ヶ月の間、毎日あの子の話をしていた我々夫婦。
新しいペットを飼う気は起きず、ペットショップへ行く事は当分無いだろうと思っていました。

でも何かの啓示でもあったのか。
眠っている間、何か夢を見ていた覚えがありますが、はっきりした記憶がありません。
ただ、ペットショップで愛らしい猫ちゃん達を見たい。
そんな気持ちになりました。

クルマで20分ほどの場所にあるペットショップに行く事にします。
店内には、生後1ヶ月~3ヶ月くらいの猫ちゃん達が沢山います。
人気のアメショーやスコティッシュフォールドがケージやガラスケースの中で眠っていました。
我が家のモカの子猫時代の姿と重なり、心が癒されます。

「かわいいねぇ」

夫婦ふたりでそうつぶやいていた中、ちょっと可哀想な光景を目にしました。

今はちょうど春休み。
親に連れられた小学生数人が、後ろ側のスコティッシュフォールドが居るガラスケースを取り囲んでいます。
子猫たちは、人間の子の甲高い大きな声が苦手。
生後40日ほどの子猫はうずくまってしまっています。
反応しない子猫を見て、小学生達はガラスケースをガンガンと叩き始めました。
すると恐怖におびえた子猫は、宙を見て周りを探すように、ミィミィと救いを求める声で鳴き始めました。

「ママ、怖いよ、どこにいるの? 助けて!」

そんな悲痛な叫びに聞こえます。
癒され、少し満たされた気持ちが、少しずつ萎えてしまうのがわかります。

いたたまれなくなって、買っても使うアテの無いペット用具コーナーへ足を運びます。

「これ、モカだったら大喜びするよね」

そんな会話がふと出てきてしまう。
既にこの世に居ない愛猫のグッズ、買っても無駄なのに、じっと吟味してしまう。
4ヶ月たって、あの子の死を心は受け入れていても、染みついた習慣は抜けきれない。
少ししんみりした気持ちになって、店を出ました。

帰りの車中。

「可愛い子がいっぱい居たね」
「そうだね。少し癒された」

「でもあの子、可哀想だったね」
「そうだね。怖くて、ママを一生懸命に呼んでいたね」

妻も、スコティッシュフォールドの子猫の事を気にしていました。

「春休みだから仕方ないけど、良い飼い主に出会ればいいね」

ペットビジネス云々の話は抜きにして、
私達は心からそう願っていました。