これは、ウチのモカがまだ3歳くらいだった頃の話です。
モカの兄猫が湖畔に戻って2年後。
(このお話は、ずいぶん前に某巨大掲示板でも書いた事があります)
幾つもの意味で、猫の生涯や自分達の老後を考えさせられた出来事でもあります。
真冬の夜、私達夫婦はモカを家に残してクルマで外出し、
帰宅は深夜1時を回りました。気温は氷点下近かったと思います。
帰り道、自宅まで50mまで迫った道路で、
道の真ん中に白い何かが見えました。
良く見ると白い猫が道路の真ん中でうずくまって座っています。
私のクルマが接近しても、ずっと居座るので怪訝に思い、
クルマから降りて猫の様子を見ました。
丸くうつぶせになったまま、動こうとしません。
声をかけると、私を見て、か細い消え入るような声で
「にゃぁ」と何かを訴えます。
かなり弱っているようで、体を触ると
氷のように冷えた身体、私の手には膿みのような物がつきました。
何かの病気なのか、このままでは死んでしまいそうな気配がしたので、
猫とクルマをそのままにして、一度我が家に入ります。
念のため、手に付いた膿みを洗い流してアルコール消毒。
家にはモカがいた為、伝染性の病気を持っていたらと心配し、
妻に先日買ったばかりの衣装ケースを準備させ、
使い捨てカイロを何個も敷いて、その上にバスタオルを敷いて
猫を入れて様子を見ました。
夜中でしたが、ちょっとバタバタとしていましたので、
近所の奥さんが様子見に出てきました。
その猫の事を知っていると言います。
名前はシロちゃん。
飼い主は3ヶ月前に入院した老婦人との事。
その後は近所の方がご飯をあげていたと言います。
しかし少しずつ食が細り、ここ一週間は何も食べず、
1~2日前から行方不明になっていたとの事でした。
部屋に戻り、24時間救急の獣医さんを探していると、
衣装ケースからまたか細い声で「にゃぁぁ」と聞こえます。
すぐに猫の様子を見たら、プラケースの中で、
もう、息を無くしていました。
あの猫が深夜、どうして道路上にいたのかはわかりません。
ただ、死に直面した体力で、氷点下の道路の真ん中まで出てくるのは
大変だったろうと思うと、悲しくなりました。
この子は自分の死期を悟ったのだろうか?
死を誰かに看取って欲しかったのだろうか?
いや、最後に飼い主に会いたくて、人間の力を借りようとしたのかも知れない、
などと考えながら、また冷たくなっていく猫の体をタオルに包みました。
そして翌日、近所でこの話が広がって、飼い主の方の息子さんと
連絡が取れて、亡骸は飼い主の元へ引き取られていきました。
あの猫は、猫好きな私達が
道を通るのを知っていたのかな?
生きている時は飼い主さんには会えなかったけれど、
飼い主さんの元に戻れたから、少しは願いは叶ったのかな、
そんな気持ちになりました。
幸せな暮らしをした猫に取って、
飼い主さんは親以上の存在なのかも知れません。
飼い主さんと一緒に過ごした幸せな時間は、
猫に取ってもかけがえの無い時間だったのだろうと思います。
静岡から帰ってきた兄猫マメも、
今回の猫ちゃんも、
飼い主さんの事が大好きだったと思います。
人と猫との絆って、人が考える以上にとても深いな、と思います。
それとともに、私達夫婦が老いた時、シロちゃんのような思いを、
猫たちにはさせたくない、そう思わせてもくれた、出来事でした。